M&A未成約~自主再生を遂げた事例

富裕層向けデザイン施工会社 訴訟や滞納で資金ショート目前

1. 会社の背景と課題

E社(設計事務所兼施工会社)は、高級住宅や店舗のデザイン施工を手がけ、その独自のデザイン性と提案力で富裕層顧客から厚い信頼を得てきました。年商は約5億円、従業員10名未満という小規模ながら高付加価値を誇る企業でした。

しかし、富裕層顧客特有の仕様変更や追加工事請求の難しさにより、利益が圧迫。さらに顧客トラブルが訴訟に発展し、想定外の支払い負担が発生。

近年は受注も減少し、資金繰りは急速に悪化していました。担保に供できる不動産もなく、金融機関からの支援も途絶。税金滞納・資金ショート目前という危機的状況に追い込まれ、後継者も不在。まさに「再生か倒産か」の瀬戸際に立たされていました。

2. 譲受企業の狙いとシナジー

譲受候補は、地域密着型のサブゼネコンであるF社(年商約10億円)。

同社は「施工力にデザイン性を加え、付加価値の高い提案を行う」という戦略を掲げ、E社が持つデザインノウハウと富裕層顧客層への接点に強い魅力を感じていました。

両社の対応エリアは重なり、施工×デザイン×富裕層顧客という補完関係が成立。

譲受側としても、グループの中にデザイン設計力を取り込むことでブランド強化を図れる見込みがあり、再生型M&Aの方向で交渉が進みました。

3. 再生型M&Aの設計と進行

弊社(株式会社シードアドバイザリー)は、弁護士・金融機関と連携し、E社の資金繰りを持たせながら再生と承継の両立を実現できるスキームを設計しました。検討したスキームは以下の通りです:

事業譲渡+特別清算+経営者ガイドライン保証

プレパッケージ型再生(債権者合意型)

第二会社方式(破産型)

最終的に、雇用維持と事業承継の両立を最優先に、「事業譲渡+特別清算+経営者ガイドライン保証」を最適案として提示し、基本合意を締結。

この時点で譲渡対価は約5,000万円を想定していました。

4.想定外の転機  劇的な資金改善と再評価の連鎖

交渉が最終段階に入った頃、E社に想定外の追い風が吹きました。

長年の顧客から大型案件の新規受注が相次ぎ、資金繰りが劇的に改善。

しかも、これまで「ダメもと」で提案していた高単価の見積りが通り契約成立。粗利も良好で、結果的に銀行も手のひらを返すように支援を再開。融資姿勢が一変し、E社は再び金融支援を受けられる体制を取り戻しました。

結果として、再生スキームを活用する場合、仕掛工事分の利益を加味してスポンサー企業(F社)が譲渡対価を上乗せして支払う必要が生じる構造となり、F社は採算性を考慮して辞退を決断。M&Aは破談となりました。

 

5.破談後の展開  自主再生と次のステージ

M&Aは成立しなかったものの、E社はその後、単年で資金繰りを改善。

3年間で着実に利益を積み上げ、債務超過から資産超過へと転換しました。

経営者は支払遅延の解消と信頼回復に尽力し、顧客・協力会社との関係も再構築。現在は安定的な黒字基盤を確立し、自主再生を完遂した企業として事業を継続しています。

ただし、後継者不在という根本課題は依然として残っており、E社は現在、「企業価値を高めたうえでの事業承継型M&A」に向けて準備を進めています。

再生で終わらせず、承継へとつなぐ。

この3年間はまさに、倒産寸前から未来への橋を架けた時間でした。

6.本事例からの学び

M&Aはゴールではなく、再生と承継のための手段

本事例は未成約に終わりましたが、再生スキームを準備したこと自体が成功要因でした。危機の中で道筋を描いていたからこそ、想定外の追い風を「再生のきっかけ」として掴むことができたのです。

経営者の粘りと冷静な判断、そして「やり切る覚悟」が、M&Aという選択肢を再生と承継の両方を支える手段へと昇華させた象徴的な事例でした。

まとめ

債務超過・滞納状態でも再生は可能

M&A準備が危機回避と資金改善の契機になる

未成約でも企業価値を高める再生へつながる

後継者問題は「再生の次」に向き合う課題

株式会社シードアドバイザリーは、 建設業界の未来に、前例なき答えを。 私たちは、経営者の努力と信念を次世代へつなぐM&Aを通じ、 「倒産」ではなく「再生」という選択肢を提示し続けます。

第2弾(小規模企業の再生)の記事はこちら
https://kensetsuma.com/2025/10/case2/

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