小規模企業の再生 ― 債務超過を乗り越え、未来へつないだ株式譲渡

 

1. 会社の背景と課題

譲渡し企業は地方の小規模リフォーム会社。
代表者はお客様の要望に誠実に応えるため、夜中まで見積りやプランを考え続ける日々を送っていました。
「信頼される仕事をしたい」その一心で、少人数でも一件一件の現場に心を込めて対応してきました。

しかし、下請け中心の構造では利益が安定せず、黒字と赤字を繰り返す経営が続きました。
親族借入やカードローン、ファクタリングで資金を繋いでいましたが、限界は近づき、債務超過に転落。
最終的には税金滞納も発生し、「倒産か、再生か」の瀬戸際に立たされていました。

代表者が最も恐れていたのは、「倒産によってお客様や協力会社様との信頼を失うこと」。
自分の生活よりも、関係者に迷惑をかけたくないという一心で、最後まで再建の道を探っていました。

2. 譲受側の狙いと寛容な判断

譲受側は、電気工事を主業としながら住宅分野への拡大を進める中堅企業。
慢性的な人材不足と技術者確保に課題を抱えており、「リフォームノウハウ」と「有資格者」を求めていました。

譲渡企業は、小規模ながらも顧客との信頼関係と、丁寧な仕事への姿勢が評価されていました。
譲受企業は、数字だけでなく代表者の人間性と現場力に価値を見出したのです。

通常、債務超過や税金滞納を抱える企業への出資や買収は敬遠されがちです。
それでも譲受企業は、

「誠実にお客様と向き合ってきた人を見捨てるべきではない」
という判断を下し、譲渡条件やスキーム調整にも柔軟に対応しました。

リスクよりも、人に投資するという寛容で実直な姿勢が、今回の再生を後押ししました。

3. 成約までのプロセス

当初は「第二会社方式(事業譲渡+破産)」で検討が進んでいましたが、三者で協議を重ねる中で、「現法人を残す株式譲渡」の方が関係者全員の利益を守れると判断。

資金繰りが限界に近い中でも、代表者は「社員も取引先様も守りたい」と誠実に対応を続け、譲受企業もそれに応える形で最終的にスキームを受け入れました。

取引進行中に資金ショートが発生した際には、弊社が一時的に資金を繋ぎ、無事クロージングに至りました。
この一連のプロセスには、経営者の覚悟と、譲受企業の理解、そして弊社の伴走支援が不可欠でした。

4. 成果

結果、株式譲渡による事業継続が成立。
倒産寸前だった会社は、譲受企業の傘下で再出発を果たし、代表者は資金苦から解放。
その後も顧客対応のポジションで現場に残り、長年支えてきたお客様との関係を継続しています。

譲受企業は、リフォーム事業のノウハウと資格者を獲得し、住宅分野への展開を加速。
譲渡企業の誠実な施工スタイルを生かし、地域密着型のブランド価値を高める結果となりました。

本件は「買収する側の懐の深さ」と「売却する側の信念」が噛み合った、まさに相互救済型の再生M&Aでした。

5. 本事例からの学び

「小規模でも、強みを見出せば継続は可能」。
今回の事例が示すのは、数字では測れない経営者の姿勢と買い手の理解力の価値です。

たとえ債務超過でも、お客様のために夜中まで見積りやプランを考え、信頼を築いてきた経営者の姿は、必ず誰かが評価します。そしてその想いを理解し、受け入れてくれる譲受企業が存在します。

倒産は終わりではなく、譲り合いから始まる再生である。
それを証明したのが、この一件でした。

6.弊社コメント(株式会社シードアドバイザリーの見解)

本件の譲渡企業が経営困難に陥った最大の要因は、経営者の「誠実さ」と「責任感」にありました。

代表者はお客様の満足を最優先に考え、対価以上の時間と費用を費やしていたため、営業から現場手配、管理、経理まですべて一人で対応する状況に。
その結果、適正な工事単価や粗利管理が後回しになり、利益を確保できない構造に陥っていました。

さらに「工事に空きをつくると協力会社様が離れてしまう」という懸念から、必要以上に安価で工事を請けていたことも、慢性的な資金難を助長しました。

これは「お客様と協力会社様を守りたい」という善意から生じた判断であり、結果的に…
よく言えば”優しすぎる経営”、悪く言えば”都合よく使われる経営”が負担となったケースでした。

一方で譲受企業は、譲渡人の施工力と働く姿勢に深い信頼を寄せ、「この人となら一緒に現場をつくれる」と判断。債務超過であっても、グループの力で受注単価を上げ、事業を立て直せると確信していました。

当初は「清算型スキーム(事業譲渡+破産)」を前提に交渉していましたが、
最終的には中長期的な視点から、取引先様や協力会社様に影響を与えない形が最善と判断し、株式譲渡スキームへ転換。

この柔軟な決断こそが、本件の成功要因です。

なお、本件のように譲渡企業の規模が小さく債務超過額も軽微であったため、株式譲渡による再生が実現しましたが、債務がもう一段大きければ法的整理型(破産・民事再生等)の選択が必要だったでしょう。

このように、企業規模や財務状況に応じて柔軟にスキームを選択できることこそ、M&Aの本質であり、譲受企業にとっても「M&Aの可能性を広げる学び」となった事例です。

株式会社シードアドバイザリーは、 建設業界の未来に、前例なき答えを。 私たちは、経営者の努力と信念を次世代へつなぐM&Aを通じ、 「倒産」ではなく「再生」という選択肢を提示し続けます。

第1弾(事業譲渡+破産)の記事はこちら
 https://kensetsuma.com/2025/10/case1/

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