建設業許可はM&Aで引き継げるのか|株式譲渡・事業譲渡・会社分割で何が変わるか

解説・コラム

建設会社のM&Aで、最初に確認すべきことは価格ではありません。許可を維持する人が、譲渡後も残るかどうかです。

建設業許可は会社に与えられています。ですから株式を譲り受ければ、許可も許可番号もそのまま残ります。ここまでは多くの解説に書かれているとおりです。

ところが、許可を維持するための要件は、会社ではなく「人」に紐づいています。前社長が退任し、ベテラン技術者が辞めれば、法人は同じでも要件を欠きます。要件を欠いた状態は許可の取消事由です。譲り受けた翌日から500万円以上の工事を請け負えない、という事態が現実に起こります。

本稿ではまず、許可の維持に不可欠な2つの役割とその要件を整理します。そのうえで、株式譲渡・事業譲渡・会社分割それぞれで許可がどう扱われるかを見ていきます。

許可の維持に不可欠な2つの役割

建設業許可を維持するには、営業所ごとに次の2つを置かなければなりません。M&Aの検討では、この2つが誰なのかを最初に特定します。

1. 経営業務の管理責任者(常勤役員等)

建設業の経営を担ってきた経験を持つ、常勤の役員です。会社に1人いれば足ります。

要件を満たすルートは複数あります。最も一般的なのは建設業の役員等として5年以上の経験です。令和2年10月の改正で「許可を受けようとする業種に関し」という限定が外れ、業種を問わず建設業での経営経験があれば足りるようになりました。

このほか、経営業務の執行権限を委任された者としての5年以上の経験、補佐する立場での6年以上の経験というルートもあります。

さらに改正で、「常勤役員等+補佐者」という体制でも要件を満たせるようになりました。建設業の役員経験が2年以上あり、他業種を含めて役員等として通算5年以上の経験がある人を置き、その人を財務管理・労務管理・業務運営それぞれ5年以上の経験を持つ補佐者が支える形です。経営経験が5年に満たない譲受側にとって、この体制ルートは有力な選択肢になります。

2. 専任技術者(営業所技術者等)

技術面の責任者で、許可業種ごとに必要です。ここが経営業務の管理責任者と決定的に違う点です。5業種の許可があれば、5業種すべてについて要件を満たす人が要ります。1人が複数業種を兼ねることは可能ですが、営業所をまたいで兼務することはできません。

要件を満たすルートは3つです。

ルート 必要なもの
国家資格 施工管理技士、建築士、技術士など。業種ごとに対応資格が決まっている
指定学科+実務 大学の指定学科卒業後3年、高校の指定学科卒業後5年の実務経験
実務経験のみ 10年以上の実務経験

特定建設業の場合はさらに厳しく、原則として1級の国家資格が必要です。土木一式・建築一式・舗装・鋼構造物・管・電気・造園の指定建設業7業種では、実務経験による代替が認められません。1級資格者がいなければ、その業種の特定許可は維持できません。

指定建設業以外であれば、一般の要件を満たしたうえで、元請として4,500万円以上の工事で2年以上の指導監督的実務経験があれば認められます。

M&Aで確認すべきこと

この2つの要件を踏まえると、譲受を検討する際の確認事項は具体的になります。

経営業務の管理責任者は誰で、残るか

多くの中小建設会社では、社長ご本人がこの役割を兼ねています。M&Aで社長が退任すれば、その時点で要件を欠きます。

対応は3つです。前社長に一定期間、役員として残っていただく。譲受側から要件を満たす人材を役員として送り込む。あるいは補佐体制で要件を組み立てる。いずれも「誰が」「いつから」を契約前に決めておく必要があります

専任技術者は業種ごとに誰で、残るか

ここが最も見落とされます。5業種の許可があっても、実際に稼働しているのは2業種、という会社は珍しくありません。しかし許可を維持する以上、5業種すべてに技術者が必要です。

そして技術者は、社長より辞めやすい立場にあります。「社長が変わるなら」と退職を申し出るケースは実際にあります。資格者が1人しかいない業種は、その1人が抜けた瞬間に許可を失います

確認するのは、業種ごとの資格者の氏名、資格の種類、年齢、そして譲渡後の意向です。名簿を見るだけでなく、実際に残っていただけるかを見極めます。

特定建設業なら、1級資格者の所在

指定建設業7業種の特定許可を持つ会社では、1級資格者が要件の生命線です。実務経験では代替できないため、資格者が抜ければ特定から一般への降格を余儀なくされます。

特定建設業は、元請として下請に5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)を発注する場合に必要です。降格すれば、受注できる工事の規模が変わります。企業価値の前提が崩れる論点です。

2024年12月の法改正で、専任技術者は「営業所技術者等」、経営業務の管理責任者は「常勤役員等」という名称に変わっています。本稿では実務で通用している従来の呼称を併記しています。

手法ごとに、許可はどう扱われるか

人の要件を押さえたうえで、手法ごとの違いを整理します。

手法 法人は変わるか 許可の扱い
株式譲渡 変わらない
(株主が変わるだけ)
そのまま維持
事業譲渡 変わる
(別法人が引き継ぐ)
移らない。認可を受ければ承継可
会社分割 変わる
(新法人・別法人へ)
移らない。認可を受ければ承継可

株式譲渡:許可は残る。届出の期限に注意

株式譲渡では、会社の所有者が変わるだけで法人は同一です。許可番号も、経営事項審査の結果も、入札参加資格もそのまま残ります。建設会社のM&Aで株式譲渡が選ばれることが多いのは、この点が大きな理由です。

ただし前述のとおり、人の要件は別問題です。あわせて、変更届の期限にも注意が必要です。

変更事項 届出期限
役員の就任・退任 30日以内
経営業務の管理責任者の変更 2週間以内
専任技術者の変更 2週間以内

社長交代に伴って経営業務の管理責任者も交代する場合、役員変更の30日以内と、経管変更の2週間以内が同時に走ります。短いほうに合わせて動く必要があります。後任が決まっていなければ、そもそも届出ができません。

事業譲渡:許可は移らない。「事前認可」を使う

事業譲渡では、譲受側の法人が事業を引き継ぎます。譲渡側の許可は譲渡側に残ったままで、譲受側には移りません。

かつては、譲受側が自ら新規に許可を取得するしかありませんでした。標準処理期間は知事許可でおおむね25〜45日、大臣許可で90日程度(実務では3〜4か月)とされ、これに書類の準備期間が加わります。その間、譲り受けた事業では500万円以上の工事を請け負えません(建築一式工事は1,500万円以上、または木造住宅で延べ面積150㎡以上)。

この空白期間を埋めるために設けられたのが、事業承継の事前認可制度です(令和2年10月1日施行の改正建設業法、第17条の2)。

事前認可のしくみ

事業譲渡の効力発生日より前に、許可行政庁の認可を受けておきます。認可を受けていれば、効力発生日に譲受側が許可を承継し、空白期間なく工事を続けられます。許可番号もそのまま引き継がれます。

ただし、次の点に注意が必要です。

申請できる期間が決まっている

ここが新規許可と大きく違う点です。認可申請は「いつでも出せる」わけではありません。東京都の場合、受付は承継予定日の2か月前から25日前までとされています。早すぎても遅すぎても受け付けられません。

効力発生日を過ぎてからは当然申請できず、その場合は新規取得しか道がなくなります。標準処理期間は東京都で受付後25営業日程度ですが、これは申請が受理されてからの日数です。書類の準備と要件の整備を含めれば、承継予定日の3〜6か月前から動き始めるのが実務上の目安になります。

審査の対象が新規許可より広い

新規許可の審査は、主に許可要件を満たしているかを見ます。これに対して認可の審査では、財産・債務・雇用関係の承継について、会社法上の手続きが適正に踏まれているかまで確認されます。分割手続きの瑕疵や、債権者保護手続きの不備があれば、認可されません。M&Aの手続きそのものが審査対象になると考えてください。

許可業種の「全部」を承継しなければならない

認可の対象は、譲渡側が持つ許可業種の全部です。10業種の許可があるうち3業種だけを承継する、という使い方はできません。承継しない業種がある場合は、認可申請の前に譲渡側がその業種の一部廃業届を出しておく必要があります。譲受側にとって不要な業種が含まれているときは、ここで整理します。

譲受側が全ての承継業種で要件を満たす必要がある

承継する業種すべてについて、経営業務の管理責任者・専任技術者・財産的基礎の要件を、譲受側が満たしていなければ認可されません。

一般と特定が混在する承継はできない

同じ業種について、譲渡側が特定建設業、譲受側が一般建設業の許可を持っている場合、承継後に一つの法人が同一業種で一般と特定の両方を持つ状態になります。この状態は認められません。事前に一方の許可を廃業して整理する必要があります。

引き継ぐのは許可だけではない

認可を受けて承継すると、許可番号に加えて経営事項審査の結果も引き継がれます。公共工事の受注実績を積み上げてきた会社を譲り受ける場合、この点は大きな価値です。一方で、譲渡側が受けていた監督処分も引き継ぎます。譲渡側の処分歴は、デューデリジェンスで必ず確認します。

認可を使わない選択

認可を使わず、譲受側が既に持っている許可の範囲で受注を続ける、という選択もあります。譲受側が同一業種の許可を持っていれば、譲り受けた事業をその許可の下で営めます。

ただし、譲渡側の完成工事高や技術者を、譲受側の実績として直ちに使えるわけではありません。公共工事の入札参加資格や経営事項審査に関わる論点は、別途整理が必要です。

会社分割:事業譲渡と同じ論点。加えて分割計画の設計が要る

会社分割では、譲渡側の会社を分割し、対象事業を新設会社または既存の別会社に移します。許可の扱いは事業譲渡と同じで、認可を受けなければ移りません。

会社分割が事業譲渡と異なるのは、包括承継である点です。事業譲渡では個別に契約を移し替えますが、会社分割では分割計画(分割契約)に記載した権利義務が一括で移ります。

建設業では、この違いが次の場面で効いてきます。

  • 進行中の工事契約を、発注者の個別同意なく移せるか
  • 協力会社との基本契約を、まとめて引き継げるか
  • 雇用契約を、労働契約承継法の手続きに沿って移せるか

一方、認可の要件は事業譲渡と同じです。承継業種すべてについて譲受側が要件を満たすこと、許可業種の全部を承継すること、一般・特定の混在を避けること、効力発生日前に認可を受けること。

加えて会社分割では、債権者保護手続きや労働者への事前通知など、会社法・労働契約承継法上の手続きが認可の審査対象になります。手続きの順序を誤ると、分割自体は成立しても認可が下りないという事態が起こり得ます。分割の設計と認可の設計は、同時に進める必要があります

相続の場合

事業者が個人で、相続によって事業を引き継ぐ場合も、認可の制度があります。ただし相続は事前に日付を決められないため、相続開始から30日以内に認可を申請するという、事後の手続きになります。

申請期間中は、被相続人の許可の効力が相続人に及ぶものとして扱われます。相続人が複数いる場合は、建設業の全部を引き継ぐ1人が申請し、他の相続人全員の同意書が必要になります。相続人の間で意見が割れると、30日の期限に間に合いません。

確認すべきは「誰が残るか」

手法ごとの違いを並べると、共通する構造が見えてきます。

株式譲渡なら許可は残ります。しかし経営業務の管理責任者と専任技術者が残らなければ、要件を欠いて取消に至ります。事業譲渡・会社分割なら許可は移りませんが、認可を受ければ承継できます。その認可も、譲受側が承継業種すべてで人の要件を満たしていることが前提です

どの手法を選んでも、結局は同じところに行き着きます。許可を維持する人が、譲渡後も残るか。残らないなら、誰を充てるか。

当社が案件に入る際、最初に確認するのは次の5点です。

  1. 許可業種と、業種ごとの一般・特定の区分
  2. 経営業務の管理責任者は誰か。譲渡後も残るか。残らない場合の後任
  3. 専任技術者は業種ごとに誰か。資格の種類と年齢。譲渡後の意向
  4. 指定建設業7業種の特定許可がある場合、1級資格者の所在
  5. 進行中の工事と、その完工予定

この5点を契約前に整理しないまま進むと、譲渡直後に受注が止まります。譲渡価額の交渉より先に、ここを固めます。

本稿は一般的な制度の解説です。個別の案件における許可の扱いは、許可行政庁や行政書士への確認が必要です。当社では、初回のご相談から許可の構成を確認し、認可スケジュールを含めた進め方をご提案しています。