「10業種の許可を持つ会社から、必要な3業種だけを引き継ぎたい」。この要望に、建設業法の承継制度は応えられません。
前回の記事で、事業譲渡・会社分割では事前認可を受けることで許可を承継できると書きました。ただしその認可には、譲渡側が持つ許可業種の全部を承継しなければならないという制約があります。
では一部だけ引き継ぎたい場合はどうするか。実は選択肢が3つあり、それぞれ得るものと失うものが違います。
なぜ「全部」が問題になるのか
建設業法第17条の2の認可は、許可を受けた地位をまとめて引き継ぐ制度です。譲渡側が土木一式・とび土工・舗装・解体など10業種の許可を持っていれば、その10業種すべてを譲受側が引き継ぐことになります。
これが問題になるのは、次のような場面です。
- 譲受側が必要としているのは3業種だけで、残り7業種は稼働していない
- 稼働していない業種にも、専任技術者を置き続けなければならない
- 特定建設業の許可が含まれており、譲受側が財産的基礎の要件を満たせない
- 譲受側が既に持つ許可と、一般・特定の区分が食い違う業種がある
許可を持てば、その業種の要件を維持する義務が生じます。使わない業種のために技術者を確保し続けるのは、譲受側にとって負担でしかありません。
認可申請の前に、譲渡側が不要な業種の一部廃業届を出しておく、という方法はあります。ただし廃業した業種の許可年数はリセットされるため、将来その業種を再取得する可能性があるなら慎重な判断が必要です。
選択肢は3つある
| 方法 | 根拠 | 一部業種のみ |
|---|---|---|
| 建設業法の承継制度 | 建設業法 第17条の2 | 不可(全業種一括) |
| 経営力向上計画の特例 | 中小企業等経営強化法 | 計画に記載した範囲 |
| 新規取得 | 建設業法 第3条 | 必要な業種のみ可能 |
① 建設業法の承継制度
前回詳しく書いた方法です。最大の利点は、許可番号と経営事項審査の結果がそのまま引き継がれること。公共工事の受注実績を積み上げてきた会社を引き継ぐなら、この点は他の方法では代替できません。
一方で、全業種一括という制約と、申請受付期間の制約(東京都では承継予定日の2か月前から25日前まで)があります。
② 経営力向上計画の許認可承継特例
中小企業等経営強化法に基づく制度です。経営力向上計画に事業承継等の内容を記載して認定を受けると、建設業を含む複数の許認可について、承継元の地位を引き継げます。
建設業法の認可とは別の枠組みなので、計画に記載した範囲での承継が想定されています。一部業種だけを引き継ぐ余地があるのは、この点です。
認定の要件
従業員数2,000人以下の事業者が対象で、事業分野別の指針に沿った計画を策定します。建設業の場合、労働生産性の向上目標を計画期間に応じて設定します(3年で1.0%以上、4年で1.5%以上、5年で2.0%以上)。申請先は国土交通大臣ではなく各地方整備局等で、事業承継を伴う場合は譲受側が申請者になります。
あわせて使える支援措置
この計画の認定は、許認可の承継だけでなく、事業承継に係る不動産取得税・登録免許税の軽減、中小企業事業再編投資損失準備金による法人税の軽減、政策金融機関の低利融資、補助金の優先採択にも結びつきます。M&Aの他の論点とまとめて設計できるのが、この制度の実質的な価値です。
ただし、不明確な点があります
許可番号や経営事項審査の結果が引き継がれるかは、建設業法の認可と違って明確ではありません。また建設業でこの特例を使った事例は相対的に少なく、許可行政庁の運用に地域差がある可能性があります。使う前に、必ず所管の行政庁へ事前相談を行ってください。
③ 新規取得
譲受側が必要な業種だけを新たに申請する方法です。業種を自由に選べる反面、許可が下りるまでの空白期間が生じます。標準処理期間は知事許可で25〜45日、大臣許可で90日程度。これに書類の準備期間が加わります。
その間、譲り受けた事業では500万円以上の工事を請け負えません。すでに譲受側が同一業種の許可を持っているなら、その許可の下で営業を継続できるので、この方法が現実的になります。
どう選ぶか
判断の順序は、次のようになります。
- 公共工事の実績が重要か。経営事項審査の結果を引き継ぐ必要があるなら、建設業法の承継制度以外に選択肢はありません。この場合、不要な業種は事前に廃業して整理します。
- 譲受側が既に同一業種の許可を持っているか。持っているなら、承継せずに自社の許可で営業を続けるのが最も簡単です。
- 一部業種だけを、実績とともに引き継ぎたいか。この場合に経営力向上計画の特例を検討します。ただし運用の確認が前提です。
なお、建設業法の承継制度と経営力向上計画は併用が可能です。許認可は建設業法の認可で承継し、税制と金融の支援は経営力向上計画で受ける、という組み立てもできます。
スケジュールが最大の制約になる
3つの方法はいずれも時間がかかり、しかも制約の形が違います。
| 方法 | 所要期間の目安 |
|---|---|
| 建設業法の承継制度 | 受付期間が承継予定日の2か月前〜25日前。審査に25営業日程度 |
| 経営力向上計画 | 認定に30日程度。加えて許可行政庁への事前相談の期間 |
| 新規取得 | 知事25〜45日、大臣90日程度。加えて書類準備 |
どの方法でも、譲渡日の3〜6か月前から動き始める必要があります。基本合意の段階で許可の扱いを決めていなければ、最終契約の日程そのものが動きます。
許可の承継は、価格交渉と並行して進める論点ではありません。先に決めるべきものです。
当社では、初回のご相談で許可業種の構成と人員を確認し、どの方法が使えるかを整理したうえで、譲渡日から逆算したスケジュールをご提案しています。行政庁への事前相談も、必要に応じて同席します。
本稿は一般的な制度の解説です。経営力向上計画の許認可承継特例については、建設業での運用が確立していない部分があり、個別の案件では必ず許可行政庁および中小企業庁の所管窓口へご確認ください。制度の詳細や要件は改正により変動します。