建設会社の譲渡で最も多く選ばれるのが株式譲渡です。会社をそのまま引き継ぐため、建設業許可も、取引先との契約も、従業員の雇用も原則として変わりません。
ただし「そのまま」だからこそ、譲渡の前に整えておくべきことがあります。株主の整理が終わっていない、許可を支える人が譲渡と同時に辞めてしまう、といった事情は、成約の直前で手続きを止めます。
本稿では、譲渡をお考えのオーナー様の立場から、株式譲渡で何が引き継がれ、何が変わり、何を準備すればよいかを整理します。
本稿の要点
- 株式譲渡では会社の持ち主が変わるだけで、許可・経審・契約・雇用は会社に残る
- 変わるのは株主と役員。許可を支える経営業務の管理責任者等と営業所技術者が残るかが最大の論点
- 名義株や株券の有無など、株式そのものの整理が手続きの前提になる
- 譲渡後は、役員変更の登記が2週間以内、許可の変更届が30日以内(要件者の変更は2週間以内)
株式譲渡とは、会社の「持ち主」が変わること
株式譲渡では、オーナー様が保有する株式を譲受企業に売却します。会社という法人そのものは何も変わらず、変わるのは株主です。
事業譲渡のように資産や契約を一つずつ移す手続きがないため、手続きが比較的簡素で、建設業許可の「事前認可」も必要ありません。事業譲渡との違いは建設業許可はM&Aで引き継げるのかで詳しく解説しています。事業譲渡の進め方は建設会社の事業譲渡で、何が移り、何が残るかをご覧ください。
そのまま引き継がれるもの、変わるもの
| 項目 | 株式譲渡での扱い |
|---|---|
| 建設業許可 | 会社に残る。新たな許可や認可は不要 |
| 経営事項審査 | 会社の評点として残る。入札参加資格も継続し、代表者などの変更は各発注機関へ届け出る |
| 工事契約・取引先 | 原則そのまま。ただし契約に、支配権の変更を解除事由とする条項がないか確認する |
| 従業員 | 雇用契約は会社との間で続く。個別の同意や再契約は不要 |
| 借入金・債務 | 会社に残る。帳簿に載っていない債務も含めて引き継がれる |
| 経営者保証 | 自動では外れない。金融機関との交渉で解除または差し替えを求める |
| 株主・役員 | 譲受企業が株主となり、役員は譲受企業の方針で入れ替わる |
譲受企業にとっては、許可や経審をそのまま使えることが株式譲渡の最大の利点です。その分、会社に残るものはすべて調べられます。帳簿に載らない債務や未払いの残業代などはデューデリジェンスで確認され、価額や契約条件に反映されます。
最大の論点は「許可を支える人」が残るか
建設業許可は、会社に経営業務の管理責任者等(旧:経営業務管理責任者)と営業所技術者(旧:専任技術者)がいることを条件に維持されています。
中小の建設会社では、オーナー様ご本人が経営業務の管理責任者等を兼ねていることが少なくありません。株式譲渡と同時に退任すると、要件を満たす人が社内にいなくなり、許可を維持できなくなるおそれがあります。
譲渡の前に確認すること
- 経営業務の管理責任者等は誰か。譲渡後も常勤役員として残るか、譲受企業側に要件を満たす人がいるか
- 営業所技術者は業種ごとに誰か。退職の予定はないか
- 特定建設業の許可があれば、1級資格者などの在籍
オーナー様が一定期間、役員として残って引き継ぐのか、譲受企業から要件を満たす人を迎えるのか。譲渡後の体制は、基本合意の前に決めておくのが安全です。
株式の整理が、手続きの前提になる
株式譲渡は「株式を売る」取引です。売る株式の権利関係がはっきりしていなければ、契約を結べません。古くからある建設会社ほど、次の点で時間がかかります。
名義株
平成2年(1990年)の商法改正前は、株式会社の設立に7人以上の発起人が必要でした。そのため、親族や知人の名前を借りて株主にした「名義株」が残っている会社があります。名義上の株主が亡くなり、相続人が分散していると、整理に数か月かかることもあります。
株券を発行する定款かどうか
定款で株券を発行すると定めている会社では、株式の譲渡に株券の交付が必要です。実際には株券を発行していない会社も多く、その場合はクロージングまでに株券を発行するか、定款を変更して株券を発行しない会社に移行します。定款の変更には公告などの手続きと期間が要るため、早めの確認が欠かせません。
譲渡の承認
中小企業の多くは、定款で株式の譲渡に会社の承認が必要と定めています。取締役会のある会社は取締役会、ない会社は原則として株主総会で、譲渡を承認します。
株式譲渡の流れ
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 準備 | 株主と株式の整理、許可要件者の確認、企業価値の算定 |
| 2. 譲受先の探索 | 社名を伏せた概要で候補を探し、秘密保持契約のうえで詳細を開示する |
| 3. 面談・基本合意 | 経営者同士の面談を経て、価額の目安と主要な条件を合意する |
| 4. デューデリジェンス | 財務・税務・法務・許可・労務を譲受企業が調査する |
| 5. 株式譲渡契約 | 最終的な価額、表明保証、役員の処遇、経営者保証の扱いを定める |
| 6. クロージング | 譲渡の承認、代金の決済、株主名簿の書き換え、役員の変更 |
| 7. 届出 | 役員変更の登記、建設業許可の変更届、発注機関への届出 |
進め方の全体像は建設業のM&Aの全体像にまとめています。
譲渡後の届出には期限がある
株式譲渡で役員が変わったときは、次の期限で手続きが必要です。
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 役員変更の登記 | 変更から2週間以内 |
| 許可:役員等の変更届 | 変更から30日以内 |
| 許可:経営業務の管理責任者等・営業所技術者の変更届 | 変更から2週間以内 |
経営業務の管理責任者等や営業所技術者の変更は期限が短く、要件を満たすことの証明書類も求められます。クロージングの日から逆算して、書類を事前にそろえておくことが大切です。
手取りは、手法と準備で変わる
株式譲渡の対価は会社ではなくオーナー様個人が受け取り、譲渡益には所得税・住民税あわせて20.315%が課税されます。役員退職金との組み合わせや経営者保証の扱いによって、手元に残る金額は変わります。詳しくは「譲渡価額」と「手元に残る金額」は違うをご覧ください。
譲受企業の側から見た確認事項は建設会社を買う前に確認すべき8つのことで解説しています。譲渡側も同じ視点で事前に点検しておくと、交渉が滞りません。
当社では、初回のご相談で株主構成と許可の要件者を確認し、株式譲渡で進められるか、事前に整えるべき点はどこかを整理してお示しします。名義株や株券の扱いも、税理士などの専門家と連携して対応します。
譲渡するか、続けるか。その比較も含めて、費用はかかりません。まずは現状をお聞かせください。
本稿は、株式譲渡の一般的な流れと論点を整理したものです。実際の手続きや期限は、会社の定款、許可の内容、許可行政庁の運用などにより異なります。具体的な判断は、専門家にご確認ください(本稿は2026年10月時点の制度に基づいています)。