建設会社の譲渡価額は、決算書の数字だけでは決まらない|純資産・収益力と、許可・技術者の評価

解説・コラム

「うちの会社はいくらで売れますか」。ご相談で最初にいただく質問ですが、その答えは決算書の数字だけでは出ません。

建設会社の譲渡価額は、貸借対照表を時価に引き直した純資産と、将来の収益力を土台に算定されます。そのうえで、建設業許可や技術者のように決算書には載らない要素が、譲受側の評価を大きく動かします。

本稿では、建設会社の譲渡価額がどのように決まるのかを、算定の土台、建設業特有の論点、価額を上げる要因と下げる要因の順に整理します。

本稿の要点

1. 中小の建設会社では、時価純資産に収益力を加える方法が算定の土台になることが多い

2. 時価への引き直しでは、未成工事・完成工事未収入金・重機・不動産など建設業特有の科目で金額が動く

3. 許可の業種と区分、技術者の資格と年齢、元請比率は、決算書に載らないが価額を左右する

4. 同じ会社でも、譲受側の目的によって評価は変わる。最終的な価額は算定ではなく交渉で決まる

算定の土台は、時価純資産と収益力

中小企業の譲渡価額の算定では、時価純資産に、将来の収益力を加える方法がよく用いられます。年買法と呼ばれる考え方です。

要素 考え方
時価純資産 貸借対照表の資産と負債を、帳簿上の金額ではなく現在の価値に引き直した差額。会社を今たたんだら残る価値に近い
収益力 会社がこの先も生み出すと見込まれる利益。正常な状態での営業利益をもとに見積もり、純資産に加算する

収益力を何年分加えるかについて、一律の相場はありません。利益の安定性、受注の見通し、譲受側がその会社に何を求めているかで変わります。年数だけを取り出して他社と比べても、自社の価額は分かりません。

将来のキャッシュフローを割り引くDCF法や、上場会社の株価と比べる類似会社比較法もありますが、中小の建設会社では事業計画の精度や比較対象の少なさから、補助的に使われることが多い方法です。

時価に引き直すと、建設会社で動く科目

建設会社の貸借対照表には、帳簿上の金額と実際の価値がずれやすい科目がいくつもあります。時価純資産は、簿価の純資産より大きくも小さくもなります。

科目 見られる点
完成工事未収入金 回収できる見込みがあるか。長期の滞留や取引先の信用状況によっては減額される
未成工事支出金・未成工事受入金 進行中の工事に赤字のものがないか。完成までにかかる原価と、受け取る代金の差が見られる
重機・車両 償却が進んで帳簿上はほぼゼロでも、中古市場で値が付くことがある。逆に稼働していない機械は価値が低い
土地・建物 資材置き場や事務所の土地は、取得時期によって含み益や含み損を抱えていることが多い
保険積立金 帳簿上の金額ではなく、解約した場合の返戻金で評価される
退職金の負担 退職給付引当金を計上していない場合、将来の支払い見込みが負債として差し引かれる

このほか、未払いの残業代、工事の瑕疵に関する請求、会社が保証人になっている債務など、決算書に載っていない負担も調査の対象になります。見つかれば価額の減額や、契約での補償の対象になります。

収益力は、正常な状態の利益で見る

収益力の算定に使うのは、決算書の利益そのものではありません。オーナー経営ならではの支出や、一度きりの損益を取り除いた正常な利益です。

  1. 役員報酬の調整。オーナーの報酬が相場より高い、あるいは低い場合、譲受後に想定される水準に置き換えて利益を計算し直します。
  2. 私的な経費の除外。事業と関係の薄い車両や保険などの費用は、譲受後になくなるものとして利益に足し戻します。
  3. 一過性の工事の除外。たまたま大型案件が重なった年、あるいは大きな赤字工事があった年は、その影響を除いて平準化します。
  4. 受注の波の考慮。公共工事の比率が高い会社は、発注量の増減を踏まえて複数年の平均で見ることが一般的です。

この調整を経ると、決算書では赤字でも、正常な利益は黒字ということも珍しくありません。

決算書に載らないが、価額を動かすもの

建設会社の譲受を検討する企業の多くは、利益そのものより、自社だけでは手に入りにくいものを求めています。それが価額を押し上げます。

建設業許可の業種と区分

許可は29業種に分かれ、それぞれに一般と特定の区分があります。譲受側が受注範囲を広げたい場合、不足している1業種を持っているだけで評価が大きく変わることがあります。特定建設業の許可は、元請として大きな工事を下請に出せる立場を意味し、譲受側にとって魅力になりやすい要素です。

技術者の資格と年齢

営業所技術者(旧:専任技術者)や現場の技術者を確保できることは、譲受の大きな動機です。1級施工管理技士などの資格者が何人いて、何歳か。若い資格者が在籍し、譲受後も働き続ける見込みがあるかが評価を左右します。

受注の構造

元請として受注しているか、下請が中心か。発注者は公共か民間か、特定の取引先に偏っていないか。経営事項審査の評点や入札参加資格の格付けも、公共工事を受注する譲受側には重要な判断材料です。

協力会社と地域

長く付き合ってきた協力会社の網や、特定の地域での実績と信用は、譲受側が新たに築こうとすれば何年もかかるものです。

価額を下げる要因

反対に、譲受後の事業の継続に不安がある点は、価額を下げる要因として扱われます。

  • 社長への依存。社長が経営業務の管理責任者等(旧:経営業務管理責任者)の要件を一人で満たしている、営業も社長の人脈に頼っている、という会社は、譲受後に許可や受注を維持できるかが論点になります。
  • 技術者の退職リスク。資格者が高齢で後任がいない、譲渡を機に辞める可能性がある、という場合は評価が下がります。
  • 社会保険の未加入や労務の問題。是正にかかる費用や、許可への影響が見込まれます。
  • 特定の元請への依存。売上の大半が一社からという場合、その取引が続く保証がなければリスクと見られます。

いずれも、譲渡の数年前から手を打てば改善できるものです。

同じ会社でも、譲受側によって価額は変わる

ここまでの要素をどう評価するかは、譲受側によって異なります。技術者を求める会社、特定の許可業種を求める会社、地域への進出を狙う会社では、同じ会社を見ても重視する点が違います。

算定で示されるのは、価額の目安となる幅です。最終的な譲渡価額は、算定ではなく交渉で決まります。自社の価値を最も高く評価する相手を見つけられるかどうかが、価額を大きく左右します。

また、譲渡価額がそのまま手元に残るわけではありません。税金や手数料を差し引いた手取りについては、「譲渡価額」と「手元に残る金額」は違うで整理しています。許可の引き継ぎについては建設業許可はM&Aで引き継げるのかもご覧ください。建設業のM&A全体の流れは建設業のM&Aの全体像にまとめています。

当社では、初回のご相談で企業価値の簡易算定を行い、譲渡価額の目安をお示しします。あわせて、許可・技術者・受注構造のどこが評価されそうか、どこを整えれば価額が上がりそうかもお伝えします。

簡易算定に費用はかかりません。社名を伏せたままでもご相談いただけます。お問い合わせフォームまたはお電話(03-3528-8810)からご連絡ください。

本稿は、建設会社の譲渡価額の考え方を説明するための一般的な内容です。実際の評価は、会社の財務内容、事業の状況、譲受側の事情などにより大きく異なります。当社が示す算定は参考資料としての簡易なものであり、確定的な評価ではありません。必要に応じて、公認会計士・税理士等の専門家の意見をお求めください(本稿は2026年10月時点の情報に基づいています)。

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